木が好き。趣味は何かと聞くと少し困った声で趣味がないと答えるが、とにかく木と造形が好きなので「趣味」には興味がないということなのだろう。そういえばいかにも木と造形が好きな顔をしている。体も声も、要するに全身で木とモノ作りが好きな人の様子がある。 そして彼の手は、触れるものの生命のささやきを繊細に感じ取ることができるような手の様子をしている。
木がなぜ好きかというと、木にはその素材と対話する楽しさがあるから、と言う。 木に触れていると、いろいろな事を教えてもらえる、と言う。彼は木を五感で感じている。自然というもの大きさ。重さ。凄さ。
人の手を加える事で出来上がってくるものは、素材である木そのものではなくなる。しかし人工的でもない。そこには別の新しいものが誕生している。自然の力と人の手の融合した何か別の生命が生まれている。
そういう自然と自分の中に内包する力との対話が、木を素材とした造形の面白さだ、と言う。
それぞれの種の木は、同じ加工によってもそれぞれ表情が異なる。固い木、柔らかい木、それぞれの素材にあわせて表情や形を出してゆく。その結果を自分で見つめる事が造形の楽しみだ、と言う。
たとえば椅子のデザインを考え、材料を選択して作り始める。素材によって最初に意図していたものからどんどん変わってくる。素材の木の性質によって寸法も仕上げも変化し、最後に出来上がる形が想像していたよりずっと良くなる。それが楽しい。
家具や道具を作る時、実用性と造形性のせめぎ合いを考えるのが好きだ、と言う。
太古から人は実用性を追求してものを作って来た。生きてゆく為に。そうして作られたものの形には,本質のものだけが持つ美しさがあり、それは造形的な美しさそのものである。それをそのまま表現するのか,あるいは少しずつバランスを崩してみるのか。木との対話は彼の中で完結しているのだから聞いてみる事はできない。出来上がったものを見て自分勝手に想像してみるしかない。
だから、この講座で木を触りながら彼と一緒に何かの形を作ってみよう。自然の力を少しずつ知る事ができるはず。